古事記 青空文庫で読む 上の巻vol.5 天照らす大神と大國主の命(頭の整理用)

以下参考

https://www.aozora.gr.jp/cards/001518/card51732.html

●天若日子
天照らす大神のお言葉で、
「葦原あしはらの水穗みずほの國くには
我わが御子みこのマサカアカツカチハヤヒアメノオシホミミの命のお治め遊あそばすべき國である」
と仰せられて、天からお降くだしになりました。
オシホミミの命

モヒガネの神及び多くの神たちが相談して、
「ホヒの神を遣やつたらよろしいでございましよう」と申しました。
そこでホヒの神を遣つかわしたところ、
この神は大國主の命に諂へつらい著ついて三年たつても御返事申し上げませんでした。

そこでオモヒガネの神が申されるには、
「アマツクニダマの神の子の天若日子あめわかひこを遣やりましよう」と申しました。
そこでりつぱな弓矢ゆみやを天若日子あめわかひこに賜わつて遣つかわしました。

しかるに天若日子はその國に降りついて
大國主の命の女むすめの下照したてる姫ひめを妻とし、
またその國を獲ようと思つて、
八年たつても御返事申し上げませんでした。

「キジの名鳴女ななきめを遣やりましよう」
そこでキジの鳴女なきめが天から降つて來て、
天若日子の門にある貴い桂かつらの木の上にいて詳しく天の神の仰せの通りに言いました。
ここに天の探女さぐめという女がいて、
このキジの言うことを聞いて天若日子に
「この鳥は鳴く聲がよくありませんから射殺しておしまいなさい」と勸めましたから、
天若日子は天の神の下さつたりつぱな弓矢をもつてそのキジを射殺しました。

ところがその矢がキジの胸から通りぬけて逆樣に射上げられて
天のヤスの河の河原においでになる天照らす大神高木たかぎの神の御許おんもとに到りました。
この高木の神というのはタカミムスビの神の別の名です。

「もし天若日子が命令通りに亂暴な神を射た矢が來たのなら、天若日子に當ることなかれ。
そうでなくてもし不屆ふとどきな心があるなら天若日子はこの矢で死んでしまえ」
と仰せられて、その矢をお取りになつて、その矢の飛んで來た穴から衝き返してお下しになりましたら、
天若日子が朝床あさどこに寢ている胸の上に當つて死にました。

それで天若日子の妻、
下照したてる姫のお泣きになる聲が風のまにまに響いて天に聞えました。
そこで天にいた天若日子の父のアマツクニダマの神、
また天若日子のもとの妻子たちが聞いて、
下りて來て泣き悲しんで、そこに葬式の家を作つて、
ガンを死人の食物を持つ役とし、
サギを箒ほうきを持つ役とし、
カワセミを御料理人とし、
スズメを碓うすを舂つく女とし、
キジを泣く役の女として、
かように定めて八日八夜というもの遊んでさわぎました。

この時アヂシキタカヒコネの神がおいでになつて、
天若日子の亡なくなつたのを弔問される時に

お佩はきになつている長い劒を拔いてその葬式の家を切り伏せ、
足で蹴飛とばしてしまいました。
それは美濃の國のアヰミ河の河上の喪山もやまという山になりました。
その持つて切きつた大刀たちの名はオホバカリといい、またカンドの劒ともいいます。

●國讓り

「天のヤス河の河上の天の石屋いわやにおいでになる
アメノヲハバリの神
がよろしいでしよう。

もしこの神でなくば、その神の子の
タケミカヅチの神
を遣すべきでしよう。

アメノトリフネの神をタケミカヅチの神に副えて遣されました。

そこでこのお二方の神が出雲の國のイザサの小濱おはまに降りついて、
長い劒を拔いて波の上に逆樣に刺さし立てて、
その劒のきつさきに安座あぐらをかいて大國主の命にお尋ねになるには、
「天照らす大神、高木の神の仰せ言で問の使に來ました。
あなたの領している葦原の中心の國は我が御子の治むべき國であると御命令がありました。
あなたの心はどうですか」
とお尋ねになりましたから、

答えて申しますには
「わたくしは何とも申しません。
わたくしの子のコトシロヌシの神が御返事申し上ぐべきですが、
鳥や魚の獵をしにミホの埼さきに行いつておつてまだ還つて參りません」
と申しました。

依つてアメノトリフネの神を遣してコトシロヌシの神を呼んで來てお尋ねになつた時に、
その父の神樣に
「この國は謹しんで天の神の御子に獻上なさいませ」と言つて、
その船を踏み傾けて、
逆樣さかさまに手をうつて青々とした神籬ひもろぎを作り成してその中に隱れてお鎭まりになりました。

そこで大國主の命にお尋ねになつたのは、
「今あなたの子のコトシロヌシの神はかように申しました。
また申すべき子がありますか」と問われました。

そこで大國主の命は
「またわたくしの子にタケミナカタの神があります。これ以外にはございません」
と申される時に、
タケミナカタの神が大きな石を手の上にさし上げて來て、
「誰だ、わしの國に來て内緒話をしているのは。さあ、力くらべをしよう。
わしが先にその手を掴つかむぞ」と言いました。

そこでその手を取らせますと、立つている氷のようであり、劒の刃のようでありました。
そこで恐れて退いております。
今度はタケミナカタの神の手を取ろうと言つてこれを取ると、
若いアシを掴むように掴みひしいで、投げうたれたので逃げて行きました。
それを追つて信濃の國の諏訪すわの湖みずうみに追い攻めて、
殺そうとなさつた時に、タケミナカタの神の申されますには、
「恐れ多いことです。わたくしをお殺しなさいますな。この地以外には他の土地には參りますまい。
またわたくしの父大國主の命の言葉に背きますまい。
この葦原の中心の國は天の神の御子みこの仰せにまかせて獻上致しましよう」と申しました。

そこで更に還つて來てその大國主の命に問われたことには、
「あなたの子どもコトシロヌシの神・タケミナカタの神お二方は、天の神の御子の仰せに背そむきませんと申しました。
あなたの心はどうですか」と問いました。
そこでお答え申しますには、
「わたくしの子ども二人の申した通りにわたくしも違いません。
この葦原の中心の國は仰せの通り獻上致しましよう。
ただわたくしの住所を天の御子みこの帝位にお登りになる壯大な御殿の通りに、
大磐石に柱を太く立て大空に棟木むなぎを高くあげてお作り下さるならば、
わたくしは所々の隅に隱れておりましよう。
またわたくしの子どもの多くの神はコトシロヌシの神を導みちびきとしてお仕え申しましたなら、
背そむく神はございますまい」と、
かように申して出雲の國のタギシの小濱おはまにりつぱな宮殿を造つて、
水戸みなとの神の子孫のクシヤタマの神を料理役として御馳走をさし上げた時に、
咒言を唱えてクシヤタマの神が鵜うになつて海底に入つて、
底の埴土はにつちを咋くわえ出て澤山の神聖なお皿を作つて、
また海草の幹みきを刈り取つて來て燧臼ひうちうすと燧杵ひうちきねを作つて、
これを擦すつて火をつくり出して唱言となえごとを申したことは、
「今わたくしの作る火は大空高くカムムスビの命の富み榮える新しい宮居の煤すすの長く垂たれ下さがるように燒たき上あげ、
地の下は底の巖に堅く燒き固まらして、
コウゾの長い綱を延ばして釣をする海人あまの釣り上げた大きな鱸すずきをさらさらと引き寄せあげて、
机つくえもたわむまでにりつぱなお料理を獻上致しましよう」
と申しました。

かくしてタケミカヅチの神が天に還つて上つて葦原の中心の國を平定した有樣を申し上げました。

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