古事記 青空文庫で読む 上の巻vol.7 ヒコホホデミの命(頭の整理用)

以下参考

https://www.aozora.gr.jp/cards/001518/card51732.html

●海幸うみさちと山幸

ニニギの命の御子のうち、
ホデリの命は海幸彦うみさちびことして、海のさまざまの魚をお取りになり、
ホヲリの命は山幸彦として山に住む鳥獸の類をお取りになりました。

ホヲリの命が兄君ホデリの命に、
「お互に道具えものを取り易かえて使つて見よう」と言つて、
三度乞われたけれども承知しませんでした。
しかし最後にようやく取り易えることを承諾しました。

シホツチの神が「隙間すきまの無い籠の小船を造つて、その船にお乘せ申し上げて教えて言うには、
「わたしがその船を押し流しますから、すこしいらつしやい。
道みちがありますから、その道の通りにおいでになると、魚の鱗うろこのように造つてある宮があります。
それが海神の宮です。
その御門ごもんの處においでになると、傍そばの井の上にりつぱな桂の木がありましよう。
その木の上においでになると、海神の女が見て何とか致しましよう」
と、お教え申し上げました。

ここに海神の女むすめのトヨタマ姫の侍女が玉の器を持つて、水を汲くもうとする時に、井に光がさしました。
仰いで見るとりつぱな男がおります。
不思議に思つていますと、ホヲリの命が、その侍女に、「水を下さい」と言われました。
侍女がそこで水を汲くんで器に入れてあげました。
しかるに水をお飮みにならないで、
頸くびにお繋けになつていた珠をお解きになつて口に含んでその器にお吐き入れなさいました。
しかるにその珠が器について、女が珠を離すことが出來ませんでしたので、ついたままにトヨタマ姫にさし上げました。
そこでトヨタマ姫が珠を見て、女に「門の外に人がいますか」と尋ねられましたから、
「井の上の桂の上に人がおいでになります。
それは大變りつぱな男でいらつしやいます。
王樣にも勝まさつて尊いお方です。
その人が水を求めましたので、さし上げましたところ、
水をお飮みにならないで、この珠を吐き入れましたが、離せませんので入れたままに持つて來てさし上げたのです」と申しました。

そこでトヨタマ姫が不思議にお思いになつて、
出て見て感心して、
そこで顏を見合つて、父に「門の前にりつぱな方がおります」と申しました。

そこで海神が自分で出て見て、
「これは貴い御子樣だ」と言つて、
内にお連れ申し上げて、
海驢あじかの皮八枚を敷き、
その上に絹きぬの敷物を八枚敷いて、
御案内申し上げ、
澤山の獻上物を具えて御馳走して、
やがてその女トヨタマ姫を差し上げました。

そこで三年になるまで、その國に留まりました。

ここにホヲリの命は初めの事をお思いになつて大きな溜息をなさいました。
兄が無くなつた鉤はりを請求する有樣を語りました。

海神がお教え申し上げて言うのに、
「この鉤を兄樣にあげる時には、
この鉤は貧乏鉤びんぼうばりの悲しみ鉤ばりだと言つて、
うしろ向きにおあげなさい。

悉く鰐わにどもを呼び集め尋ねて言うには、
「今天の神の御子の日ひの御子樣みこさまが上の國においでになろうとするのだが、
お前たちは幾日にお送り申し上げて御返事するか」と尋ねました。

そこでそれぞれに自分の身の長さのままに日數を限つて申す中に、
一丈の鰐わにが「わたくしが一日にお送り申し上げて還つて參りましよう」
と申しました。
依つてその一丈の鰐に「それならばお前がお送り申し上げよ。
海中を渡る時にこわがらせ申すな」と言つて、
その鰐の頸にお乘せ申し上げて送り出しました。

はたして約束通り一日にお送り申し上げました。

その鰐が還ろうとした時に、
紐の附いている小刀をお解きになつて、
その鰐の頸につけてお返しになりました。
そこでその一丈の鰐をば、
今でもサヒモチの神と言つております。

かくして悉く海神の教えた通りにして鉤を返されました。
そこでこれよりいよいよ貧しくなつて更に荒い心を起して攻めて來ます。
攻めようとする時は潮の盈ちる珠を出して溺らせ、
あやまつてくる時は潮の乾る珠を出して救い、
苦しめました時に、おじぎをして言うには、
「わたくしは今から後、あなた樣の晝夜の護衞兵となつてお仕え申し上げましよう」と申しました。
そこで今に至るまで隼人はやとはその溺れた時のしわざを演じてお仕え申し上げるのです。

●トヨタマ姫
ここに海神の女、トヨタマ姫の命が御自身で出ておいでになつて申しますには、
「わたくしは以前から姙娠にんしんしておりますが、今御子を産むべき時になりました。
これを思うに天の神の御子を海中でお生うみ申し上ぐべきではございませんから出て參りました」
と申し上げました。

そこでその海邊の波際なぎさに鵜うの羽を屋根にして産室を造りましたが、
その産室がまだ葺き終らないのに、御子が生まれそうになりましたから、産室におはいりになりました。

その時夫の君に申されて言うには
「すべて他國の者は子を産む時になれば、その本國の形になつて産むのです。
それでわたくしももとの身になつて産もうと思いますが、わたくしを御覽遊ばしますな」
と申されました。

ところがその言葉を不思議に思われて、
今盛んに子をお産みになる最中さいちゆうに覗のぞいて御覽になると、
八丈もある長い鰐になつて匐はいのたくつておりました。

そこで畏れ驚いて遁げ退きなさいました。
しかるにトヨタマ姫の命は窺見のぞきみなさつた事をお知りになつて、
恥かしい事にお思いになつて御子を産み置いて
「わたくしは常に海の道を通つて通かよおうと思つておりましたが、
わたくしの形を覗のぞいて御覽になつたのは恥かしいことです」
と申して、
海の道をふさいで歸つておしまいになりました。

そこでお産うまれになつた御子の名を
アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズの命と
申し上げます。

しかしながら後には窺見のぞきみなさつた御心を恨みながらも戀しさにお堪えなさらないで、その御子を御養育申し上げるために、その妹のタマヨリ姫を差しあげ、それに附けて歌を差しあげました。

このヒコホホデミの命は高千穗の宮に五百八十年おいでなさいました。
御陵ごりようはその高千穗の山の西にあります。

アマツヒコヒコナギサタケウガヤフキアヘズの命は、
叔母のタマヨリ姫と結婚してお生みになつた御子の名は、
イツセの命・
イナヒの命・
ミケヌの命・
ワカミケヌの命、またの名はトヨミケヌの命、またの名はカムヤマトイハレ彦の命
の四人です。

ミケヌの命は波の高みを蹈んで海外の國へとお渡りになり、イナヒの命は母の國として海原におはいりになりました。

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