古事記 青空文庫で読む 上の巻vol.6 ニニギの命(頭の整理用)
以下参考
https://www.aozora.gr.jp/cards/001518/card51732.html
●天降
太子オシホミミの命が仰せになるには、
「わたくしは降おりようとして支度したくをしております間あいだに子が生まれました。
名はアメニギシクニニギシアマツヒコヒコホノニニギの命
と申します。
この子を降したいと思います」と申しました。
この御子みこはオシホミミの命が高木の神の女むすめヨロヅハタトヨアキツシ姫の命と結婚されて
お生うみになつた子が
アメノホアカリの命・
ヒコホノニニギの命
のお二方なのでした。
「この葦原の水穗の國はあなたの治むべき國であると命令するのである。依よつて命令の通りにお降りなさい」
ここにヒコホノニニギの命が天からお降くだりになろうとする時に、
道の眞中まんなかにいて上は天を照てらし、
下したは葦原の中心の國を照らす神がおります。
アメノウズメの神に仰せられるには、
「あなたは女ではあるが出會つた神に向き合つて勝つ神である。だからあなたが往つて尋ねることは、
我が御子みこのお降くだりなろうとする道をかようにしているのは誰であるかと問え」
と仰せになりました。
そこで問われる時に答え申されるには、
「わたくしは國の神でサルタ彦の神という者です。天の神の御子みこがお降りになると聞きましたので、
御前みまえにお仕え申そうとして出迎えております」と申しました。
かくてアメノコヤネの命・
フトダマの命・
アメノウズメの命・
イシコリドメの命・
タマノオヤの命、
合わせて五部族の神を副えて天から降らせ申しました。
この時に先さきに天あめの石戸いわとの前で天照らす大神をお迎えした
大きな勾玉まがたま、
鏡
また
草薙くさなぎの劒、
及びオモヒガネの神・
タヂカラヲの神・
アメノイハトワケの神
をお副そえになつて仰せになるには、
「この鏡こそはもつぱらわたしの魂たましいとして、わたしの前を祭るようにお祭り申し上げよ。
次つぎにオモヒガネの神はわたしの御子みこの治められる種々いろいろのことを取り扱つてお仕え申せ」
と仰せられました。
この二神は伊勢神宮にお祭り申し上げております。
なお伊勢神宮の外宮げくうにはトヨウケの神を祭つてあります。
次にアメノイハトワケの神はまたの名はクシイハマドの神、またトヨイハマドの神といい、
この神は御門の神です。
タヂカラヲの神はサナの地においでになります。
このアメノコヤネの命は中臣なかとみの連等むらじらの祖先、
フトダマの命は忌部いみべの首等おびとらの祖先、
ウズメの命は猿女さるめの君等きみらの祖先、
イシコリドメの命は鏡作かがみつくりの連等の祖先、
タマノオヤの命は玉祖たまのおやの連等の祖先であります。
●猿女の君
アマツヒコホノニニギの命に仰せになつて、
天上の御座を離れ、八重やえ立つ雲を押し分けて勢いよく道を押し分け、
天からの階段によつて、下の世界に浮洲うきすがあり、それにお立たちになつて、
遂ついに筑紫つくしの東方とうほうなる高千穗たかちほの尊い峰にお降くだり申さしめました。
ここにアメノオシヒの命と
アマツクメの命と
二人が石の靫ゆきを負い、
頭あたまが瘤こぶになつている大刀たちを佩はいて、
強い弓を持ち立派な矢を挾んで、
御前みまえに立つてお仕え申しました。
このアメノオシヒの命は大伴おおともの連等むらじらの祖先、
アマツクメの命は久米くめの直等あたえらの祖先であります。
アメノウズメの命に仰せられるには、
「この御前に立つてお仕え申し上げたサルタ彦の大神を、
顯し申し上げたあなたがお送り申せ。
またその神のお名前はあなたが受けてお仕え申せ」と仰せられました。
この故に猿女さるめの君等はそのサルタ彦の男神の名を繼いで女を猿女の君というのです。
そのサルタ彦の神はアザカにおいでになつた時に、
漁すなどりをしてヒラブ貝に手を咋くい合わされて海水に溺れました。
その海底に沈んでおられる時の名を底につく御魂みたまと申し、
海水につぶつぶと泡が立つ時の名を粒立つぶたつ御魂と申し、
水面に出て泡が開く時の名を泡咲あわさく御魂と申します。
ウズメの命は悉く大小樣々の魚どもを集めて、
「お前たちは天の神の御子にお仕え申し上げるか、どうですか」と問う時に、
魚どもは皆「お仕え申しましよう」と申しました中に、
海鼠なまこだけが申しませんでした。
そこでウズメの命が海鼠に言うには、
「この口は返事をしない口か」と言つて小刀かたなでその口を裂さきました。
それで今でも海鼠の口は裂けております。
かようの次第で、
御世みよごとに志摩しまの國から魚類の貢物みつぎものを獻たてまつる時に猿女の君等に下くだされるのです。
●木の花の咲くや姫
ヒコホノニニギの命は、
カササの御埼みさきで美しい孃子おとめにお遇いになつて、
「どなたの女子むすめごですか」とお尋ねになりました。
そこで「わたくしはオホヤマツミの神の女むすめの木この花の咲さくや姫です」
と申しました。
また「兄弟がありますか」とお尋ねになつたところ、
「姉に石長姫いわながひめがあります」
と申し上げました。
依つて仰せられるには、
「あなたと結婚けつこんをしたいと思うが、どうですか」
と仰せられますと、
「わたくしは何とも申し上げられません。父のオホヤマツミの神が申し上げるでしよう」
と申しました
依つてその父オホヤマツミの神にお求めになると、
非常に喜んで
姉の石長姫いわながひめを副えて、
澤山の獻上物を持たせて
奉たてまつりました。
ところが
その姉は大變醜かつたので恐れて返し送つて、
妹の木の花の咲くや姫だけを留とめて一夜お寢やすみになりました。
しかるに
オホヤマツミの神は石長姫をお返し遊ばされたのによつて、
非常に恥じて申し送られたことは、
「わたくしが二人を竝べて奉つたわけは、
石長姫をお使いになると、天の神の御子みこの御壽命は雪が降り風が吹いても永久に石のように堅實においでになるであろう。
また木の花の咲くや姫をお使いになれば、木の花の榮えるように榮えるであろうと誓言をたてて奉りました。
しかるに今石長姫を返して
木の花の咲くや姫を一人お留めなすつたから、
天の神の御子の御壽命は、木の花のようにもろくおいでなさることでしよう」と申しました。
こういう次第で、今日に至るまで天皇の御壽命が長くないのです。
かくして後に木の花の咲くや姫が參り出て申すには、
「わたくしは姙娠にんしんしまして、今子を産む時になりました。
これは天の神の御子ですから、勝手にお生み申し上あぐべきではございません。
そこでこの事を申し上げます」
と申されました。
そこで命が仰せになつて言うには、
「咲くや姫よ、一夜で姙はらんだと言うが、國の神の子ではないか」
と仰せになつたから、
「わたくしの姙んでいる子が國の神の子ならば、生む時に無事でないでしよう。
もし天の神の御子でありましたら、無事でありましよう」
と申して、
戸口の無い大きな家を作つてその家の中におはいりになり、
粘土ねばつちですつかり塗りふさいで、
お生みになる時に當つてその家に火をつけてお生みになりました。
その火が眞盛まつさかりに燃える時にお生まれになつた御子はホデリの命で、
これは隼人等はやとらの祖先です。
次にお生まれになつた御子はホスセリの命、
次にお生まれになつた御子はホヲリの命、またの名はアマツヒコヒコホホデミの命でございます。